球体解釈 1.序詞
汽笛。
船の汽笛と、それに呼応するような波音から曲は幕を開ける。二つは混ざり合い、徐々に差し迫る。緊迫感を醸し出す音は、詞とともにプツリとやむ。
暗い部屋の隅に、一人佇む男。
思えばこれまでの人生 海原に浮かぶ一艘の船
身を粉にし得た対価で どうにか防ぐ波風
イントロと呼応する「一艘の船」という言葉を使い、主人公の苦難を表している。ここでいう船は、帆も張られていないようなオンボロだろう。必死になって、波風をしのぎ、日々を生き抜くのが精一杯な状況。これが人生を通してそうなのだから、主人公はひどく人生に悲観的である。
自由を求め 自由を恐れ いつかという幻の声
自らにないもの、自由への憧れと畏怖。決められた責務を果たし生きる日々から脱却したい、けれどそれが怖くもある。「いつか自由になれるのではないか」「いつか自由になってしまうのではないか」という相反する二つの感情。
行きたい場所が見つからない
帰りたい場所はあるのに
自由になったところで、行くあてもない。寄る辺とするところは確かにあるのに。
教えて 嗚呼 教えて 嗚呼
自分は、どこに行くべきなのか。分からない。自ら答えを出せない。
いつのまに削られ 均されてしまった
疑わず限度を 受け入れてしまった
同調圧力に削られ均され、自分の限界を知らぬ間に決めつけてしまった。自ら考え、己を信じることを、やめてしまった。
腐敗した世界にも 花は咲くと 握りしめた種
今さら蒔く場所などなく ただひとり立ち尽くす
希望を手にして、何かを変えることも出来なくなった。これが間違っていると分かっているのに。自分には出来ない、と限度を受け入れたのだ。
答えを求めうつむいた 視界の隅に見慣れた靴
顔上げたその先に 朝日を背にした君
ここで初めて、第二の存在「君」が示される。
―扉が開く。
朝日を背に帰ってきた「君」は沈んだ声で言う
「ただいま」