球体解釈 3.硝子壜
前曲↓
「序詞」と同じ部屋で、下弦の月夜に男が唄う。
晴れた日よりも雨の日が好きで
冷めたふりしていつも泣き虫で
思い出される、君のこと。
鉛色に染まる部屋の中で 君が置いていった硝子壜だけが
色を集めて光反射して ただひとつ 綺麗だった
君は、この部屋に硝子壜を一つ置いてどこかへ行ってしまった。この部屋で唯一の、君の思い出が輝いて見える。
「まぶしくて目を閉じている間に、
大事なものをもし見過ごしてしまったら嫌だから、
太陽より、私は月が好き」
君が語っていた、月が好きな理由。眩しさで物事を見えにくくする陽光より、暗闇に光る月光を彼女は好んだ。
鉛色に染まる部屋の中で 君が置いていった硝子壜だけが
色を集めて光反射して ただひとつ 綺麗だった
月を眺めれば、君を思い出す。月のように光を受けて輝く硝子壜が、綺麗で仕方ない。悲しいほどに。
悲しみがほどけない
巡りくる明日に もう君はいない
自ら「ほどこう」としても、この悲しみは「ほどけない」。どうすることもできない。
悲しみがほどけない
小さな硝子壜 もう花は咲かない
「腐敗した世界にも花は咲く」のに、君が残した硝子壜に、花は咲かない。
嗚呼
部屋中の光を一身に浴び、硝子壜は輝けど、その花は、決して咲くことはない。
君は、もういないのだから。
時計の針のようなアウトロが、残酷に流れゆく時間と、何も変わらない現実を刻む。
また今日も男は、無力に、鉛色の部屋に独り残される。